【第2回 審査はどんな観点で進められるのか?】
ビジョンの重要性
「社会にどうインパクトを与えるのか」、あるいは、「誰に対して何を実現するのか」、これをビジョンと呼んでみましょう。ある人は、ビジョンを憧憬と訳しました。こんな風になったらいいな、というイメージというようなことです。せっかく、起業を志すのであれば、そういった何らかのビジョンがあった方がいい、そう考えています。
とはいえ、誰もがかしこまって賞賛するようなビジョンがなければいけないわけでもないと思います。社会起業という言葉が流通していますが、何らかの社会的問題を真摯に解決するのだ、ということだけがビジョンではありません。もちろん、そのことを否定するつもりはありませんが、それだけでなく、こうなった方がもっと楽しいのに、というような気張らないことでも、立派なビジョンだと思いますし、むしろ、自分に引きつけられる分だけ考えやすいと思います。たとえば、日本最大級のアパレルECサイト「ZOZO RESORT」を運営するスタート・トゥデイのビジョン(同社は経営理念と呼んでいます)は、「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」です。誰もが共感できる、わかりやすいビジョンだと思いませんか?
では、何のためにビジョンを考える必要があるのでしょう?
ひとつは、「続ける」ためです。事業は続けられることが重要です。収益を得なければいけないのも、そうしないと、せっかく顧客に満足してもらっている事業を続けられなくなるからです。前回でも説明したように、あるサービスや製品が面白いからそれを提供するというだけでは、それが失敗したときには、それで終わりになってしまいます。もちろん、会社を経営していれば他の手を考えようとするでしょうが、そのときに、何を基準にして次のサービスや製品を考えたら良いか分からなくなります。起業ストーリーなどを読むと、まず始めてみて、いちど失敗してから、そのことを真剣に考えるということも多いようですが、せっかくの機会なので、始めようとしている今こそまさに考えるべき時期です。もちろん、実際に事業を展開していけば、いずれ考えが変わってくることもあるでしょう。でもその際に、いちどとことん考えた経験は役に立つのです。
もうひとつは、「まとまる」ためです。起業チャレンジは、チームでの応募を条件としていますが、これは、複数のメンバーがいた方が、事業の起動が有利だと考えるためです。特に最初期は様々なことを並行して行わなければなりません。そこで、スキルの違う人たちがチームを組んでいることはかなりアドバンテージとなります。一方で、複数人いれば、考え方が全く同じということはありません。スキルが違えばなおさらです。考え方のズレは、不協和音として、事業活動の重大な障害となりかねません。それを防ぎ、一つのチームとしてまとまるためには、「私たちは何がしたいんだっけ?」という共有されたビジョンが必要となるのです。
また、事業がうまく行けば、人を雇うことになるでしょう。雇わないまでも、様々な人たちとコラボレーションしていくことが必要になります。そういった場合にも、判断の基準となるビジョンがあった方が格段にまとまりやすくなるはずです。
これらのことから、何らかのビジョンを真剣に考え、チーム内で共有しておくことが必要になると考えています。
アイデアの所在
ビジネスアイデアを考えていく際に、時代のトレンドを意識することは重要です。しかし、それは、流行に乗ることとは違います。いま流行っていることは魅力的に見えますが、サービス企画や開発、試行錯誤にかかる時間を考えると、いまだけを見ていると乗り遅れます。また、流行っているということは既に誰かが実施していることですので、資本力や人の数で劣るスタートアップには分が悪い領域だともいえます。もちろん、同じようなことでも、より良くできる、もっとユーザのためになるというアイデアがあるのであれば、それに越したことはありません。
いずれにせよ、ひとつの方策は、いま実現できていないことに目をつけるということが考えられます。「もっとこうした方がずっと良いのに」と思えることが、いまはできていない。それは、なぜだろうか?と考えてみます。既存の企業ではできない理由があるのかもしれません。似たようなことはしているが、これまでのビジネススキームを崩せないために、手が出せないのかもしれません。
また、ほとんどの場合、誰も気づいていないアイデアというのはない、と考えた方が良いと思います。似たようなサービスは、探せばあるものです。でも、うまくいっていないから目立たない。それはなぜか?そんなところにも、ヒントはあるはずです。
そのように考えていって、他の人たちにできないことが自分たちにできると言える理由が説明できれば望ましいです。それは、もしかしたら、自分たちがまだビジネスを始めていないから、という理由かもしれません。自分たちがまだ小さいから機動力が発揮できるはずだ、という理由かもしれません。それが何であれ、その理由が確信できることは大きな推進力になると考えます。
実行可能性の評価
ビジョンがあり、アイデアがある。あとは、それをどう実現するか、です。一気にアイデアのすべてを実行して、ビジョンを実現することは、ほとんどの場合、ムリです。これは、資本力の問題でも、経験やスキルの問題でもないと思います。また、プランの段階では、そのアイデアが有効だという保証もありません。とりあえず、やってみることがどうしても必要です。
では、どうするか。マイルストーンを置くという考え方があります。マイルストーンは、もともと、道に迷わないように、目印に置いておく石のことを指します。いま、考えているアイデアを有効だと考えた場合に、この時期までにはここまでいけるだろう、という道標を置いておくのです。そこまで到達したら、次のステージに進める。そして、それがクリアできたら、次は・・・、といったように、自分たちのプランをステージに分けて考えてみる。そうすると、自分たち以外の人が見たときに、ほんとにビジョンが実現できるかの検証がしやすくなります。つまりは、自分たちのプランの説得力が増すことになります。
では、そのマイルストーンに到達するためには何が必要なのか。チームのメンバーは、そこでどんな役割を果たしていくのか。こういったことを考えていくと、起業した後の、それぞれの具体的な動き方がだんだん見えてきます。ここまでくれば、あとはやるだけ、です。
ビジネスモデルの検証
事業を維持するためには、利益が必要です。儲からなければ、どんな良いサービスを作っても維持ができません。事業の維持のために、どのように収益を上げることができるのか。このことを考えることは、事業の関係者(顧客や取引先など)に、その事業に対してどんな関わり方をしてもらうのか、ということを考えることになります。ここでいう関わり方は、金銭的なやりとり(つまり、売上や仕入)を含みますが、それだけではありません。事業に関わり続けたいと思ってもらえなければ、どんなに利益がだせそうでも、いずれ、維持ができなくなります。
その関係者(ステークホルダーと呼んだりもします)の関わり方を整理していくことが、ビジネスモデルを考えていくことになります。ここがうまくできていないと、どんなに良いアイデアも仮に一時的に実行できたとしても、維持ができないのです。
とはいえ、チャレンジしよう!
ここまで、いろいろと書いてきましたが、これらすべてが完璧に文書化なされていないと審査をパスできない、というものではありません。インタビューやブラッシュアップミーティングといった形をとり、ディスカッションの場を用意しているのも、そのためです。もちろん、ビジネスプランを文書化する際には、ここで書いたようなことを意識していただいた方が良いですが、審査としては、ディスカッションによってより良くなる可能性も考慮しています。
ですので、少しでもアイデアを実現したいという想いがあれば、チャレンジしてください。ディスカッションしていくうちに気づくこともあると思います。結局のところ、やってみなければ分からないことも多いのですから。