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インターネットビジネスの種

〜あたりまえの壊し方から
スカイライトコンサルティング株式会社 シニアマネジャー 小川育男
起業家らしい考え方とは?
July 22 , 2014 9:42 Ikuo Ogawa  
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 いずれ起業はしたいけれどまだ経験も知識も乏しいので、事業会社で働いたりコンサルタントになったりするという人の話をよく聞く。確かに起業家もビジネスをしているのには変わりがないから、起業家になる前に優秀なビジネスパーソンになろうという考え方は分かる。


 では、既存企業に勤める優秀なビジネスパーソンと起業家の考え方に違いはないのだろうか。この問題に取り組んだのが、Saras D.Sarasvathy の論文「What Makes Entrepreneurs Entrepreneurial? (何が起業家を起業家たらしめるのか?)」だ。この論文を参照しつつ、起業する際にどんな考え方を心がけたら良いのかを考えてみよう。



因果的推論と効果的推論

 あなたがあるアイデアで起業しようと思い立ったとしよう。何から始めるだろうか? 例えばこんな考え方はどうだろう。参入する市場を調査し、セグメントを切って、ターゲットユーザを決める。アイデアに基づいてターゲット向けのサービスを企画し、実現に必要なタスクを考える。マーケティングプランを考え、売上計画を立て、コストを積み上げ、事業計画を作成する。これら一連の検討結果をビジネスプランにまとめた上で、必要とされるタスクをこなせる仲間や資金を提供してくれる人を探しにいく。


 こういった考え方は「因果的推論(causal reasoning)」と呼ばれる。まずゴール(ここではビジネスプラン)を設定して、そのゴールにたどり着くための手段を考える。すぐに見つかる手段もあれば、知恵を絞らないと出てこない手段もある。だが、いずれにせよ、ゴールありきであり、そこから逆算していく考え方だ。ビジネススクールなどで学ぶことが多いのはこの因果的推論だ。コンサルタントが得意とするのも因果的推論である場合が多い。


 因果的推論と真逆なのが「効果的推論(effectual reasoning)」だ。Sarasvathyの研究によると、効果的推論を用いる起業家は次の3つの前提から考え始める。


1)自分は誰か? 何が好きで、何ができるか
2)自分は何を知っているか? どんな教育を受け、どんな専門性、経験があるか
3)自分は誰を知っているか? どんな人たちとのコネクションがあるか


 つまり、ゴールがどこかではなく、自分が何を持っていて、いま何ができるかというところから考え始める。もちろん、目指すべきビジョンはあるだろう。だが、それをゴールとして具体化することに時間を割くよりも、まず自分ができることから始めてチャンスをうかがうのだ。


 このため、効果的推論は因果的推論のように手順化することが難しい。起業家自身の持つリソースと置かれた環境によって、取りうる手段は千差万別であり、取りうる手段によって実際に向かう方向もかなり変わってくる。これが、優れた起業家の成功体験を聞いてもなかなか真似できない理由ともいえるだろう。


未来の不確実性とコンセンサス

 もう少し違いを明確にしてみよう。因果的推論と効果的推論の大きな違いのひとつは、未来に対する考え方だ。


 因果的推論は、まず既にある情報や知識に基づいて未来を予測する。そして、予測した未来に合わせてどう振る舞うべきかをプランニングし、そのために必要なリソースを調達する。ここでは、暗黙のうちに「未来は予測可能である」ということが前提されている。予測可能であるくらい不確実性の低い環境にある場合は有効な考え方だ。程度にもよるが、大企業や競争が穏やかなビジネス環境では比較的有効だろう。


 効果的推論の前提は「未来は予測できない」あるいは「未来を予測できるかはわからない」となる。もちろん効果的推論の場合も目指すべき方向(ビジョン)は必要だ。だが実現可能な積み上げの結果としての予測された未来は必要ない。いま自分の手元にあるリソースを有効に使いながら、とにかく前に進む。前に進めば置かれた環境が変化していくため、その変化に合わせて自分のアクションを変えていく。


 もうひとつの違いは、コンセンサスのとりやすさにある。


 因果的推論は予測された未来を前提に因果的・論理的に条件を積み上げていってプランニングされるため、多くのステークホルダー間でのコンセンサスがとりやすい。もちろん、対立する論点や意見がでてくることもあるだろうが、それが分かれば対応は可能だ。


 効果的推論は他の人に説明するのが難しい。動いている本人ですら予測不能な場合も多く、状況を見きわめつつ臨機応変に対応するというようなことを行っているのであるから、未来にどうなるかに関してコンセンサスをとるための材料がそもそもない。


 効果的推論が起業家に特徴的な考え方だとされるのに対し、因果的推論は大企業のマネジャーに要求されることが多い。未来予測の不確実性を犠牲にしても上司や同僚とのコンセンサスが重要視されるからだ。ビジネススクールで学ぶことが多いのもそれが手順化可能であることからうなずける。起業家にとっても、コンセンサスが優先される場合は有効だ。資金調達のため、投資家に事業の可能性を納得してもらう必要がある場合などがそれにあたるだろう。


起業家に必要なこと

 最後に「起業家はどこで選択を誤るのか」で Sarasvathyに言及されている箇所を引用しよう。(なお、言及されているのは上記の論文ではなく、書籍「Effectuation」である)


 起業のチャンスを発見するためには、起業家は自らの既存の知識に適切な新しい知識を組み合わせ、それから手段と目的の的確な組み合わせを考えて、チャンスを最大限に引き出せるようにしておく必要がある。(「起業家はどこで選択を誤るのか」p.78)


 この引用文があるのは、起業を準備するために大きな会社に勤めるべきか小さな会社に勤めるべきかを分析している節だ。既存の知識と新しい知識の組み合わせ、もしくは手段と目的の的確な組み合わせを適切なタイミングで活用すること、経験豊富な起業家はこの活用方法に習熟している。適切なタイミングで活用しつつ、チャンスをうかがうのだ。そういった効果的推論の考え方が学べるのであれば、経験を積む会社が大きくても小さくても関係ない。それだけ起業家にとって効果的推論を習得する価値があるともいえる。


 因果的推論と効果的推論、普段自分はどちらの考え方を使っていることが多いだろうか?どちらが正しいということではなく、適切に使い分けることができるようになるということが最も大切なのだと思う。ときたま少し立ち止まって、自分がどういった考え方をしているのかを考えてみてはいかがだろうか。



<出典>

Saras D. Sarasvathy
http://www.darden.virginia.edu/web/Faculty-Research/Directory/Full-time/Saras-D-Sarasvathy/

What Makes Entrepreneurs Entrepreneurial?
What Makes Entrepreneurs Entrepreneurial?


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