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インターネットビジネスの種

〜あたりまえの壊し方から
スカイライトコンサルティング株式会社 コンサルタント 小川育男
アーティストとの関係性という商材 ― フリクルとAKB48が挑む共通の課題
May 22 , 2012 13:58 Ikuo Ogawa  
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 最近、有料のメルマガの発行が流行ってきているらしい。ある分野での著名人が、モノを書くということで収入を得る手段として使いやすいという供給側の理由は分かりやすいが、決して安いとは言えない金額でなぜメルマガを購読するのか、またなぜいまどきメールなのかという疑問を持っていた。

 この疑問を氷解させてくれたのは、『有名ブロガーメルマガと芸能人ディナーショーの共通点について』 というブログ記事だ。一言でいうと、そこにはメルマガの作者に対するファン心理が働いているという。メールは紙の手紙を模した“プライベート”なツールであり、その“プライベート”さがその作者のファンであるという感覚を満足させるのだ、と。



 考えてみれば、書籍や音楽といったコンテンツ産業は、ユーザーを“マス”として認識しがちな業界であったといってよいだろう。多売が原則の業界であるため、いかにチャネルを確保し、大量の人たちにリーチするか、これが事業課題である。そのため、個々のユーザにアプローチするより、レーベルや取次といった中間業者を挟み、小売店舗経由で販売する。結果、誰が買っているのかは分からないという状態に甘んじてきていた。

 その一方で、ユーザ側はファンとして、音楽にしろ文章にしろ、自分自身に直接送られてくるメッセージであると受け取りたいという気持ちで接する。好きなアーティストが歌い上げる音楽はまさに自分の心境を見透かしたようなメッセージに感じることがあるし、好きな作家の著書もまたしかりである。

 ここに供給側と需要側の認識のミスマッチがある。CDや(紙の)本といったモノの販売から、iTunesなどの音源や電子書籍といったデジタルファイルへの変化ということが語られがちだが、供給側からみた“売り方”の変化の認識で終わっては、問題を捉えそこなうだろう。そこには、この供給側と需要側の認識のミスマッチが解消されうるのではないか、という期待が動き出しているといえる。

 この動きについて、「フリクル」というサービスとAKB48というちょっと変わった組み合わせで具体的に考えてみよう。


フリクルとは?

 フリクルは、昨年設立されたワールドスケープ社が提供しているアーティストの支援サービスである。このサービスの前提は「CDはもう売れない」ということにある。アーティストがCDの売り上げで活動を続けるのではなく、それ以外の選択肢を提示したいということにある。

 CD以外の選択肢とすれば、ライブチケットかファンクラブ会費、グッズ販売などになる。これを効果的に実現するために、フリクルはメルマガという媒体を使う。メルマガを購読してくれたユーザに対して、楽曲は無償で提供するのだ。まず、自分たちの曲を聴いてもらって、気に入ればライブやファンクラブ(フリクルではプレミアムサポーターという)、グッズなどでお金を払ってもらうという形態である。

 ここでは、「著作物(楽曲)の利用という便益」に対して対価をもらうという発想はない。楽曲は、アーティストとユーザの関係を構築するための手段となっている。つまり、ユーザは、メールという“プライベート”な形態で自分にアーティストから直接届くメッセージを享受することで、アーティストとの関係を取り結ぶのである。

 ユーザが対価を支払う対象は「アーティストとの関係性(によってパーソナルに受ける便益)」であり、ここが他の音楽SNSなど、CDなどの著作物(楽曲)販売の口コミを誘発するためのサービスと大きく違う点といえる。

 このサービスには、大きなチャレンジがある。このモデルは、CDの販売を諦めることで、既存の音楽業界の市場規模を著しく縮小させてしまう。となると、CD販売を前提とした上で方向転換の模索をしている既存の音楽業界とどう共存していくのか、あるいは、あくまでルールブレイカーとして、アーティストを直接的な供給者として育てる方向を狙っていくのかという2つの方向がありえてくる。おそらく、現状では後者を狙っているようだし、それはそれでスタートアップとして潔いように思える。


フリクル
http://frekul.com/


「アーティストとの関係性」という商材

 この課題を前者の方向性できわめて巧妙に解決しているモデルとして、AKB48があげられる。AKB48にまつわる様々なビジネスモデルはここで説明するまでもなくいろいろな論考が出ているが、ここで注目したいのは、それらのビジネスモデルの共通点が「AKB48とファンの関係性」というものを商材としている、ということだ。

 例えば、CDに付属された握手券を挙げてみよう。これはもはやCDを買っているのではなく、AKB48のメンバーと握手をする体験を売っている。つまり、購入者は、「握手体験」ということで取り結ぶAKB48メンバーとの関係を買っていることになると解釈できる。その関係性構築への参加の権利をCDという既存の商材に同梱したというところにこの売り方の巧妙さがある。既存の音楽業界にとっては、CDを売っているように見えるが、ユーザにとってはファンであるという体験を売ることになっている。そうすることで、供給側と需要側の認識のミスマッチは、双方が別のものを見るということで、うまく解決されているのである。


AKB48公式ページ
http://www.akb48.co.jp/


供給側と需要側のミスマッチの解消へ

 まとめよう。多売を維持するためユーザを“マス”として捉えざるをえない供給側と、“プライベート”な体験としてアーティストとの関係を取り結びたい需要側。ここにミスマッチが存在した。

 それを解決するために、“マス”と捉える既存の供給側を廃しアーティストを供給側として成り立たせようとするフリクルと、既存の供給側とユーザそれぞれに対し、同じモノを違う商材として演出して見せたAKB48。いずれにせよ、そのミスマッチをどうにか解消しようという動きがみられる。

 ミスマッチがそこにあるのであれば、それを解消することはビジネスにつながる。少なくとも音楽業界はそこに反応しているようだ。確かに、音楽業界は、昔からライブ/コンサートやファンクラブという形態で、「アーティストとの関係性」に焦点を当てた売り方の経験がないわけではない。しかし、マス的な売り方を変えるまでの影響力はなかった。ところが、CDというマス的に売るモノが、コピー可能というデジタルコンテンツの台頭に押されて縮小してきたこと、ソーシャルメディアをはじめとするネットメディアにより関係性を作りやすくなったことの影響で、ミスマッチ解消による売り方の変革の模索が始まったといえるだろう。

 では、他のコンテンツ産業はどうだろうか。もし同じようなミスマッチがあるのであれば、その解消策は考えられそうだ。その辺を掘り起こしていくと、次の主流となりうるイノベーションの種が隠れているのかもしれない。

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