|
数年前、「ネットとテレビの融合」というキーワードが巷をにぎわせていた。ライブドアがフジテレビの買収をしかけ、楽天が TBS に資本参加した頃の話だ。そのキーワードそのものはしばらく耳にしなくなったが、地デジへの切り替えもあり、テレビをネットにつなぐこと自体はかなり普及してきた。最近では、TSUTAYA などからのコンテンツレンタルがテレビの機器から行えるものも登場している。また、Appleが先日、新しい AppleTV を発表したり、 GoogleTV の発売が予定されていたりと、ネットとテレビの融合を想起させる機会も増えてきている。
では、どんな「融合」が行われるのだろう?まず、 AppleTV と GoogleTV を概観し、それに対して日本でかなり特異な展開を図ろうとしているガラポンTV からその「融合」の可能性を見てみたい。
音楽から動画へ、AppleTV のモデル
AppleTV は、いくつかの記事を見て行く限り、テレビ番組や映画などの動画コンテンツをペイパービューを基本とした形で視聴しやすくするという機能が中心のように見える。Flickr や YouTube などのネットのコンテンツも見ることができるし、おそらくアプリも動くようになるのかもしれないが、モデルとしては iPod×iTunes で音楽コンテンツに対して適用した戦略を動画に持ってきていると考えられる。
iPod×iTunes では、CD というメディアを通じてパッケージとして販売されていた音楽コンテンツを楽曲ごとのファイルとして分解し、一曲から購入することを実現した。つまり、あくまでコンテンツが中心としてあり、その流通/配信メディアとしてネットは利用されているといえる。動画も同様に、ケーブルテレビや DVD などの既存のパッケージングされたメディアを、個々のコンテンツに分割し、それをネットを通じて流通させるという図式で捉えられているのではないか、AppleTV のアピールの仕方からはそんな風なモデルが透けて見えてくる。
ヴァーティカルサーチとしてのGoogleTV
それに対し、GoogleTV は Web の延長線上にテレビデバイスを位置づけているように見える。放映されるテレビ番組も、録画した番組も、ネット上の動画コンテンツも横断的に検索することが出来るという機能が特徴的だ。ブラウザとしてネットのコンテンツも操作することが出来るが、動画コンテンツを中心に見た場合、GoogleTV が実現しているのは、動画に特化したヴァーティカルサーチである。
Web上の Googleも、Google Place や Google Images、Google Books など、従来のネットコンテンツを総合的に検索するユニバーサルサーチから、ジャンルに特化したヴァーティカルサーチに力を入れる傾向が見える。これは、Google Instant の導入にも垣間見えるように、広告の Impression を増やして広告在庫を拡大するために、その面を増やしていくという方向性をとっているためと考えられる。純粋にユーザ目線で考えても、求めるジャンルが決まっているなら、そのジャンルに特化したヴァーティカルサーチの方が使いやすく、それだけに検索結果の閲覧(ページ)数もより増えるということが考えられるだろう。GoogleTV は、その流れに沿っているように思えるのだ。
ガラポンTVの目のつけどころ
ガラポンTVとは、ガラポン株式会社が提供を計画しているセットトップボックスである。ホームページの説明には、「ガラポンTV端末は、テレビ番組を 24時間×30日間以上、最大7チャンネル分録画します。録画したテレビ番組を、PCやモバイル環境から検索して視聴できます」とある。放映されているテレビ番組を区別することなくすべてハードディスクに録画し、それを PC や iPhone などのネットデバイスから閲覧できるというものだ。先日開催された WISH2010 でプレゼンがなされた映像もあるので参照してほしい。
※WISH2010 ガラポンTV(YouTube)
ハードディスクに録画しても、勝手に共有するわけにはいかないので、視聴できるのは、ガラポンTVのセットトップボックスを持っているユーザだけである。特徴的なのは、録画された番組に対して、URI(Uniform Resource Identifier)が付与される点にある。番組に固有な ID というだけでなく、番組のどの時点かということにも体系的な URI が付与される。ガラポン TVでは、地デジの字幕データも保存されるため、キーワードでその字幕を検索することができるが、どの番組の何分時点という映像へのポインタをその URI によって指示することが出来る。つまり、SNS や Twitter などでその URI を指定することで、ガラポンTV を持っているユーザ同士は同じ番組のある映像を間違いなく共有することができるようになるわけである。
既にあたりまえのことではあるが、ネットでは URL によってあるページを指示することで、ユーザ間で同じページを共有することが可能である。URL がページの場所を指示するのに対しURIは、RDF などのメタデータの規格でも採用されているが、それを拡張し、 Resource に固有の識別子を付与するという考え方である。しかし、その区別はここではさほど重要ではない。ポイントは映像のある時点に共有可能な識別子が付与されているということである。
ここで視聴率を考えてみよう。言うまでもないだろうが、視聴率はテレビ番組をどれだけの人が見ているかという割合であり、テレビ広告業界では最重要の指標である。しかし、HDレコーダーなどの録画機器により放映されている時間以外に番組をみるという視聴はカウントに入れることが難しい。それに対し、番組映像に URI が付与されると、視聴時にそれをサーバ側に送信することで、どの番組がどれだけ見られているということを測定することが可能になる。もちろん、全般的な視聴率を割り出すためには、ガラポンTV がかなり普及するか、サンプリングにより視聴率測定用の機器として利用されることという条件が必要ではあるが、一定数が普及すれば、視聴に対するログ情報としての価値はかなり高いことが考えられる。例えば、CMの反応度やそれがネットに波及していく様子が捉えられるということを考えてみることもできるのである。
このように、URI というネットでは一般的な考え方を導入することで、テレビのコンテンツとしての活用の仕方はかなり拡張されていく。特にユーザのアクションを捉え、さらにそれを共有していくという方向性だ。これも「ネットとテレビの融合」の一形態と考えられるのではないだろうか。
まとめ
ガラポンTV の方向性は、日本に特有なところもあるといえるだろう。日本では、テレビ視聴者があまりにも無料の映像コンテンツに慣れすぎているということがある。しかし、だからこそ、AppleTV や GoogleTV の方向性は、ペイパービューの普及しているアメリカでは、ある意味、王道とは思えたとしても、日本でどこまで普及していくのかは未知数だ。
ここには2つの流れが見て取れる。ひとつは、チャンネルからコンテンツへ細分化されつつ広告だけではなくユーザから課金して行こうというテレビ業界の方向性。もうひとつは、映像コンテンツをひとつのリソースとして、ユーザ間で共有していきたいというソーシャルメディアの方向性だ。いずれも、ネットが推進してきた大きな流れの中にあり、今後、様々なアイデアが試される場所になる可能性が高いといえるだろう。
|