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「Evernote」 の「Trunk」にみるEcosystem構築の意義
July 21 , 2010 22:07
Ikuo Ogawa   |
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 オンラインメモ管理サービスの Evernote が対応製品を紹介するサービス「Trunk(トランク)」を開始した。Trunkは、API等を経由してEvernoteと連携するサービスや製品(Webサービスだけでなく、スキャナなどのハードウェアもある)を一覧でき、ゆくゆくはそこで販売できるようにするというサービスである。このような戦略は、Ecosystem(エコシステム)を構築すると称されることがある。Twitterや、日本ではmixiやモバゲーのとる戦略もそうだ。しかし、 Ecosystemとは一体何を指しているのだろうか?このことを、Evernote の Trunk を導きの糸として見ていってみよう。

「シリコンバレーにみる Ecosystem 」

 Ecosystem という単語は生物学で用いられ、日本語には「生態系」と訳されることが多い。しかし、ビジネス領域に転用した場合、それでは意味が分かりにくい。ここでは、“ある場を共有し、関係を持つ種々の構成要素がその活動を維持して行くための仕組み”といった意味と理解しておこう。

よく言われるシリコンバレーにおけるベンチャー企業の Ecosystem は、起業家に対して VC が資金を提供し、専門メディアが起業家の構築したサービス・製品を広報し、他のベンチャーがそのサービス・製品を使うことでベンチャー自体を育て、IPO もしくは M&A によりベンチャーの Exit(エグジット)が果たされる。そして、資産を形成した起業家あるいは VC がさらにエンジェルや支援者となって、新たな起業家の支援を行うという一連の仕組みをさしている。そこでは、ベンチャーを巡るある種の生態系が構成されていると考えられる。


「2つの観点からのEcosystemの分析」

 さて、Evernote の Trunk に戻る。ここで構築される Ecosystem は、見方によって、大きく2つに分けて考えることができる。ひとつは、企業の観点。もうひとつは、サービス(あるいは、データ)の観点だ。企業の観点とは、Ecosystem の構成要素として、企業を捉え、企業にとって有益な(=棲みやすい)Ecosystem を構築していくという観点になる。一方、サービスの観点では、サービス間の連携が図りやすい仕組みを提供することで、単独でのサービス提供よりもそれぞれのサービスの価値が向上するような(=棲みやすい)Ecosystemを構築していくという観点になる。もちろん、実際にはそれほどきっちりと分割できるものではない。ただ、自分たちのサービスがどのように Ecosystem なるものと関係づけられるのかを考えるとき、その分割は有用だと思われる。それぞれ詳しく見てみよう。


「企業の観点から見た Ecosystemの構築」

 Evernote の Trunk ではまだ提供されていないが、Apple の AppStore のように Trunk がある種のマーケットプレイスとして機能した場合の話となる。Evernote が大きなユーザ数を持っていることを前提として、そのユーザに対してサービスや製品を提供する企業への収益機会を提供する。企業が収益を得て、さらなるサービス・製品提供を行っていくことで、結果的にユーザの利便性があがり、Evernote のユーザにとっての価値が向上するという観点である。

これは、モバゲータウンあるいは mixi がソーシャルゲームのプラットフォームを提供することで、それぞれの価値を高めようという戦略である。違った例を挙げれば、 Google の Adwords や Yahoo!/Overture が検索エンジンやリスティング広告を提供することで、(それまで存在しなかった)SEO 業者やSEM 業者が生み出されたのも、この観点では同じ構図ということができるだろう。いずれにせよ、圧倒的なユーザベースを持つサービスが、その一部を外部に開放することで収益機会を提供し、ある業界を生み出していく、そういう考え方だ。

しかし、この観点からは、持続的な影響力を持つ新たなサービスは生まれにくい。確かに、モバゲータウンや mixi は、ソーシャルグラフを利用する API を、 Google は Adwords の分析環境を、そしてそれらすべてが課金システムを提供した。しかし、そこでは、それらのサービスを使う業界が盛り上がることで、それらのサービスのユーザがさらに増えるという垂直的なフィードバックループしか形成されない。業界内のプレーヤーの創意工夫により新サービスが開発されるとしても、プレーヤー相互の連携という水平の広がりによるイノベーションの機会は限定されていると言わざるをえない。これらは、実際には大きなユーザベースを前提としたプラットフォームを提供しているだけであり、プラットフォーム対業界内プレーヤーという単一の関係性しか構築しにくいのである。


「サービスの観点から見たEcosystemの構築」

 それに対して、Evernote の Trunk が持つもうひとつの観点がサービスの観点、言い換えると、そこで提供されるデータ(=ユーザのメモ)の観点である。このデータへのアクセスをAPIという形で提供することで、様々なサービスとの連携を模索することができる。インプットとして、スキャナから取り込んだ資料が、デジカメで撮影した写真が、RSS リーダーで読んだ記事が、Evernote に取り込まれて行く。逆に、Evernote に保存されたドキュメントが、いくつかの加工を経て、 twitterなり Facebook なりの他のコミュニケーションツールにアウトプットされて行くこともあるだろう。

そのようなインプットとアウトプットの連鎖の上では、Evernote もひとつのノードにすぎない。それぞれのサービスが、ユーザの一連の行動パターンに応じて、それぞれの得意領域を活かしたひとつの役割を果たして行くことになる。APIを通じて、様々なサービスが連携し、あるいは、連携させるためのサービスが提供され、ユーザを基軸としたユーザの生成したデータのEcosystemが構築されて行く。そういう観点で考えた場合、ユーザの興味・関心、使える時間的、スキル的リソースなどに応じて、千差万別な使い方=サービスの組み合わせ方を模索することができることになる。このように考えられることが、もうひとつの Ecosystem の観点の意義だ。


「どういう Ecosystem を目指すべきか?」

 twitter も API を提供することにより、単なるつぶやくツール以上の意味が与えられ、ユーザの獲得、ユーザのアクティビティに資することができたということはよく言われている。様々なサービスにアウトプット先として twitter への連携窓口が付け加えられることで、また、twitter の情報を分析するサービスや分析することでフォローなどの次のユーザアクションにつなげるサービスが提供されている。それらは、ネット環境あるいは、ネットだけじゃないユーザの生活する環境において、それぞれのサービスの場所が与えられ、それらが連携することで、それぞれのサービスの価値が高められるという現象を作り出しているということができる。

もちろん、その観点で考えた場合、Trunk は単なるきっかけにすぎない。まだ、それが有効に機能するのかどうかもわからない。しかし、Evernote が単なるマーケットプレイスだけでなく、ユーザの観点での Ecosystem を提供しうる可能性を秘めているとはいうことができるだろう。

さらにはこの観点で各々のサービスを、あるいは、そのサービスが目指しているユーザへ提供する価値を考えてみよう。どのようなサービスと連携し、どのような Ecosystem を構築していくべきなのか。これだけたくさんのサービスが乱立する中で、すべてを一つのサービスで提供し、ユーザを囲い込んで行くことは、もはや事実上不可能に近い。だとしても、自分たちのサービスがその一角を担える Ecosystem を想定し、つまりは、ユーザの一連の活動の中で、当該サービスが担える位置をしっかり掴むことで、どちらに進むべきかの指針は得られるのではないだろうか。

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