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ソーシャルコマースの落とし穴と『InBook』にみるその可能性
June 29 , 2010 11:08
Ikuo Ogawa   |
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「ソーシャルコマースを3つに分類してみる」

 最近また「ソーシャルコマース」という言葉を耳にするようになった。「ソーシャルコマース」は、2006年くらいにコンセプトとして提示されてきた言葉だと記憶している。この「ソーシャルコマース」という言葉。よく考えてみると、ちょっと奇妙な印象を受ける。「コマース」を訳すと商取引。そもそも商取引は、人と人のモノとカネの交換を指すわけだから、その言葉自体に「ソーシャル」という意味は含まれる。また、口コミといった商品の品定めも、かなりの昔から行われているので、そういった意味でも「コマース」は「ソーシャル」な事柄だ。あらためて「ソーシャルコマース」というからには、そんな昔から行われている商取引あるいは商品の品定めを言い直した言葉ではないのだろう。では、何を意味するのか?ここで厳密な定義をするつもりもないが、意味しうる可能性を検討してみよう。

「ソーシャルコマース」で意味していると考えられる内容は、概念的にではあるが大きく3つに分けることができるだろう。

1)商品の販売者と購入者間のコミュニケーションによる商取引
2)商品の購入者(たち)の情報をもとにした販売者による商品のレコメンデーション
3)商品の購入者間のコミュニケーションを活性化することによる商品の販売促進

実際のソーシャルコマースの活用例を見ると、当然、これらを組み合わせて実施していくことになるので、ストレートにどれかに分類するということは難しいし、すべきでもないと思う。ただ、この3つを敢えて分けることで、その意味内容の見通しは良くなるはずだ。なお、ここで「購入者」と言った場合は、便宜的に、まだ購入していないが購入しうる人たちを指すことにする。

1)商品の販売者と購入者間のコミュニケーションによる商取引

 従来のマス広告も、商品の情報を(潜在)購入者に提供するという意味ではこの分類に入る。ただ、ソーシャルコマースというからには、販売者から購入者の一方向ではなく、購入者の販売者に対する意見などを受けて、販売方法の改善や商品開発に役立てるという視点が入る。ECサイトやメーカーがブログなどで商品の情報を発信しつつ、購入者の意見を吸い上げて行くというのがその例だ。販売者は多数の購入者とコミュニケーションをとることになるが、その情報の流れは、あくまで販売者と購入者の1対1の関係が基本となる。ちなみに、GoogleのAdwordsなどのリスティング広告は、ここに分類できる。


2)商品の購入者(たち)の情報をもとにした販売者による商品のレコメンデーション

 この分類で、最もメジャーなのは、Amazonの協調フィルタリングによる商品のレコメンデーション(「この商品を買った人はこんな商品も買っています」)だ。販売者は、購入者の購買履歴をもとに一緒に購入している商品を統計的に割り出して、購入を検討している人に対してオススメとして提示する。これは、明確な事象として購入者間にコミュニケーションが発生しているわけではないが、同じような商品の系列を買った人=同じような趣向を持っている人がいるということを購入を検討している人に認識させることで、購入を促している。つまり、明確に購入者間に関係があるわけではないが、商品の系列を通して、購入者間の関係があるかのように認識させているわけである。もちろん、使える情報は購買履歴だけでなく、購入者の各種属性もありうるだろう。これも、そういった意味で、「ソーシャル」コマースと言えなくはない。但し、ここでも販売者と購入者は1対1の関係にある。


3)商品の購入者間のコミュニケーションを活性化することによる商品の販売促進

 おそらく「ソーシャルコマース」という言葉で示されている事柄の本命はこの分類になるだろう。ここでの主役はあくまで購入者間のやりとりにある。購入者間である商品に対するコミュニケーションが活性化することで、その商品に関する認知が高まり、情報が流通し、その商品を購入する確率が高まっていく。この「コミュニケーション」はかなり広い意味で捉えてほしい。例えば、facebookが導入した“Like”という機能で、facebookのユーザが行うことは“Like”というボタンを押すことだけだが、それによって、自分がその商品に興味があるということをfacebook上で自分と関係づけられた他者に対して示すことになる。逆に言えば、それを見た人は、“Like”を押した人がその商品に興味があるという情報、つまり、何らかの信頼がおける商品であるということを認識することになる。そういった情報をやり取りするという意味で、それを「コミュニケーション」と呼んでいる。

ここで注意しなければならないのは、3)に分類したモデルでは、販売者は購入者に対して商品を売ることができないということである。もちろん、購入するための仕組みを用意することはできる。平たく言えば、Web上では、商品購入ページへのリンクを張ることだ。ただそれは、1や2の分類のモデルのように販売者が購入者へ何らかの働きかけを行って誘導するのではなく、購入者間のコミュニケーションの副産物として生じることになる。販売者ができることは、購入者間のコミュニケーションに情報を投げ込むことで、あるいは、そのコミュニケーションのための場を提供することで、そのコミュニケーションが活性するための材料を与えることにすぎない。


「3の分類モデルにもとづくサービスの落とし穴」

 このことにより、販売者と購入者間のコミュニケーションを活性化するプラットフォームの分離が生じやすくなる。つまり、販売者は商品に関する情報を提供する主体となり、その利用を促すのは別のサービスが行うことができるということだ。いや、むしろ、商品に関する情報を提供するサービスとその利用を促すサービスは別物だと考えた方がよい。ECサイトがSNSを使って販促活動を行おうとする場合に失敗しやすいのはこの混同にあるといえる。つまり、SNSを通じて商品を売ろうとしてしまうのだ。

販売者は商品が売れることが指標となるのだが、情報の利用を促すサービスの指標はユーザ(購入者)間のコミュニケーションの活性化度、例えば、エントリ数やPV数、アクティブ率などになる。もちろん、後者の場合でも、結果的に収益は販売者からの広告やアフィリエイトなどから得られることになる場合は、購入数は重要な指標である。しかし、それに捕われすぎると目的を見失うことになってしまう。


「『InBook』にみるソーシャルコマースの可能性」

 広告により意図的に販売者が商品の情報を提供しているという認識は、既に多くの購入者が持っている。だからこそ、購入者間のコミュニケーションにより得られた情報の方が、広告などの販売者から直接得た情報より、信頼度は高いはずだ、という認識に傾きやすい。そういった意味で、3)の意味でのソーシャルコマースは今後ますます増えていくことになるだろう。例えば iPadの発売により、にわかに活性化している電子書籍にしても現状では1)か2)に分類されるモデルに留まっており、3)の意味での書籍に関する情報の購入者間のコミュニケーションを活性化するサービスはまだまだ少ない。

書籍は、それが持つ情報量も多いだけに、書籍に関するコミュニケーションの活性化策は様々なものが考えられるだろう。その一例として「InBook」というサービスがある。

これは、自分の読んだ書籍で気に入ったフレーズの引用を登録し、ユーザ間で共有するというサービスである。書籍の販売者からすれば、引用だけで売り上げにつながるとも思えないが、ユーザからすれば印象的なフレーズを軸に読むべき書籍を選ぶことができるし、マンガなどであれば専門雑誌にそういったフレーズを特集するようなページがあるくらいなので、そういったフレーズを共有して楽しむということはよく行われていることといえる。

ECサイトにユーザレビューを投稿してもらい、購入の手助けにしようという考え方とは違った発想がここにはある。同じように考えて行くと、対象とする商品によって、あるいは、対象とするターゲットユーザによって、いかにコミュニケーションを活性化させるかというサービス設計にはまだまだ多くの可能性が残されているのではないだろうか。

インターネットビジネスの種 by Ikuo Ogawa
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