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『FREE』が抱える矛盾。フリーであることの目的とは?
June 08 , 2010 9:26
Ikuo Ogawa   |
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 言うまでもなく、ネット上のサービスはフリー(無料)で提供されるものが多い。ネット上では、地理的・物理的な制約を受けにくいため、他のサービスとの差別化はその機能差によってしまう。同等の機能であれば、また、使ってみなければ価値の分かりにくい機能であれば、とりあえず使ってもらうためにフリーで提供する、ということになる。

フリーで提供すれば、当然のことながら、開発費も運営費も賄えない。そのため、いかにマネタイズするか?という問題がのしかかる。その問題へのいくつかの解決策を提示したのが、クリス・アンダーソン著『FREE』だ。そこでは、4つのモデルが提示されている。なかでも有名なのは、“フリーミアム”と“広告モデル”になるだろう。確かにいずれも有効なモデルだし、成功例も多い。ただ、どんなサービスにも向いているというわけではない。


「フリーミアムの矛盾」

 フリーミアムとは、基本機能をフリーで提供し、よりグレードの高い機能を数%のユーザに有償で提供する、というビジネスモデルだ。これはビジネスモデルというより、マーケティング手法のひとつと捉えることができる。というのも、モデルとしては、ECサイトやスーパーマーケットなどの小売に近いと考えられるからだ。

ECサイトで商品を閲覧するのには料金はかからない。また、「コストコ」などの一部を除いて、スーパーマーケットに入るのに会費はいらない。ショッピングを楽しむこと自体はフリーで提供し、一部のユーザから展示されている商品を購入してもらうことで収益を得るというモデルだ。ECサイトの用語でいえば、まずトラフィックを稼ぎ、いかにコンバージョンに結びつけるか。それが最大の課題となる。従って、アップセル的に単価の高い商品の購入を促すか、クロスセル的に購買頻度を増やしてもらうか、そういった施策を打つことになる。

それに対して、ネット上のサービスを見てみると、月額などの定期課金で提供することは比較的容易だが、その分、単価は割安になりがちだ。もちろん、競争力があれば単価を高く設定することは可能だろうが、それには初期投資が高かったり、ロイヤルティの高いユーザがつきやすいサービスだったりして、そもそもフリーミアムモデルを使う必要がないだろう。単価を割安にせざるをえないゆえに、トラフィック(ユーザ数)を増やすためにフリーミアムモデルをとる必要がでてくるわけだ。

そこに、フリーミアムモデルでサービス提供する矛盾が現れる。つまり、トラフィックを増やすためには、サービスをより多くの人に受ける形に作り上げる必要がある。従って、ある領域でのサービスは、多くの人をユーザとして扱うために、よりオーソドックスなサービスに収斂(しゅうれん)しがちである。それらのサービスはある程度のクオリティが確保できると寡占化に向かう(もちろん、ネットワーク外部性などの要因もある)。先行者メリットという言葉で語られることもあるが、いかにある領域で最初のサービスになるか。より速やかにユーザ数を増やし、デファクトスタンダードとなるか、これが重要になる。

しかし、ネットサービスもそのラインナップが十分増え、各領域にデファクトであるような巨大サービスが出てきてしまうと、後発はよりニッチに向かわざるを得ない。数多ある競合に対してサービス固有の強みを出すためには、ターゲットユーザを絞り込んで、より特化したサービスに仕上げる必要がある。すると、トラフィックを稼ぎにくくなるため、完全有料化し、せいぜいプロモーションの一環としてフリーであることを利用するという従来型のマーケティング手法にならざるをえない。


「広告モデルの矛盾」

 広告モデルもほぼ同様な矛盾を抱えている。違うのは、トラフィックの獲得がサービスを売るためのマーケティングではなく、仕入れにあたるということである。つまり、広告でマネタイズを果たしているサイトは、トラフィック=ユーザの目をたくさん仕入れて、それをクリック(広告主のサイトへの遷移)という形で、広告主に売っていると捉えることができる。

広告モデルは、仕入れのためにトラフィックを獲得する。よりたくさんの仕入れをすることで、よりたくさんの広告主を獲得することができる。やはり、そういった意味での小売のモデルであるために、販売(=クリックやインプレッション)から得られる収益単価は少なくなり、多くの仕入れをできるサービスを提供したところがより多くの総収益を獲得できるということになる。従って、上述のフリーミアムと同様に、より多くの人に受け入れられるオーソドックスなサービスにするという圧力がかかってしまう。

では、ターゲットユーザを絞り込み、より特化したサービスを提供するためにはどうすればいいのか?

広告モデルに関しては、前々回のコラム『そもそも何のための広告なのか? ADネットワーク「The Deck」のチャレンジ』の延長線上にそのヒントはありそうだ。ここでは、広告モデルではない方向を考えてみよう。


「フリーであることの目的の明確化」

 先ほど、フリーミアムはマーケティング手法であると書いた。では、広告モデルと同様にフリーであることを仕入れだと考えてみよう。ただし、広告モデルが仕入れているユーザの目とは違ったものを仕入れていると考える。それは何か?

ここから先は、個別サービスの特性に依るといわざるをえないのだが、一般的に言うと、ユーザのアクションを記録したログや、ユーザの投稿した文章や画像などのコンテンツがそれにあたるだろう。例えば、化粧品口コミサイト「アットコスメ」がそういった方向をとっている。ユーザの投稿を分析することで、化粧品会社に対しマーケティングデータを提供している。また、まだそういった使い方はしてなさそうだが、例えば、カーナビの利用者が一定数以上増えてくれば、カーナビのルート検索で利用したユーザのログは渋滞予測に使えるかもしれない。あるいは、「ウェザーニュース」のような天気に関するユーザ投稿を促しているサービスがその投稿を解析すると天気予報精度の向上につなげることができるかもしれない。

フリーでサービスを使ってもらうことで何が得られるのか?を明確にすることで、フリーミアムでも広告モデルでもないビジネスモデルが考えられるはずだ。ただし、広告モデルがユーザの目=広告主に対する商品というシンプルな等式が成り立っているのに対し、ユーザデータを収集した後に、それを何らかのソリューションに組み立てるというもうひとつのアイデアが必要になる。

逆に言えば、サービスの利用ユーザに対して、しっかりターゲッティングした特化したサービスを提供すると同時に、そこで得られたユーザに関するデータをどう加工して誰に提供するのか?というもうひとつのサービス設計をきちんとしてみる。そうすることで、収益化を果たしつつ、ユーザに対し日常的に使いやすいサービスを提供するという道が開けてくるのではないだろうか。



【訂正】下から3番目の段落最後の一文にて「天気予報精度の向上に綱が得ることができるかもしれない」となっておりましたが、「天気予報精度の向上につなげることができるかもしれない」の誤りです。該当箇所を訂正の上、深くお詫致します。(2010-06-07)

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