|
今年は既に15件以上の上場廃止を伴うMBOの実施が発表されており、過去最高をうかがう水準である。本邦においても戦略実行の手段としての非上場化が一般化し、今後さらに増えると思われる。
最近ではMBOを実施する上でスキームの参考とすべき事例も増え、2000年代によく指摘された「利益相反」「スクウィーズアウト」等のキーワードで議論されていた一連の問題への対処には一定の公式が作られてきている。
今回は特に有名、かつ業界ではこれに則った対処をすることが常識となっている、経済産業省による『企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針』(経済産業省、以下「MBO指針」という。)について解説する。
MBO指針では、MBOが内包する諸問題に対しどのような解決策が考えられるのかということについて、一定の対応策が提示されており、実務者もそれに則った対応をしているのが昨今のMBOのストラクチャー構築の標準である。
MBO指針は、上記題名を検索エンジンで検索していただければ経済産業省の Webサイトから誰でもダウンロードが可能である。興味ある方はそれほど分量も多くないので是非読んでみていただきたい。
実務上はこれに則った対応を基本としながら、個別案件毎に諸々の工夫をしながら対応していくことになる。実際のMBOディールではシンプルなケースだけでなく、多数の当事者が買い手となるケース、既存株主の関係が複雑なケースなど、様々なケースが考えられる。基本的には、MBOの指針で解説されている注意点を意識しつつ、個別のストラクチャーをケースに応じて(関係者の合意点を探りながら)構築する必要がある。
さて、MBOの指針をご覧になっていただくと、以下の目次となっている。
1.はじめに
2.現在の議論状況とその整理
3.論点の分析
4.論点の整理
5.実務上の具体的対応
6.その他の取引類型における議論の応用
7.本指針を踏まえて
8.おわりに
著者としては、特に実務でMBOに携わる方に読んで頂きたいと思う項目は「5.実務上の具体的対応」である。また、MBO指針P20の図表「実務上の対応の整理」はよくまとまっているのでご覧になられると、基本的かつやや具体的な対応方法等を理解できるであろう。

(出所:『企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針』 経済産業省)
重要な部分を抜き出してみると、
・適切なスキームを選定した上で、当該スキーム及びその背景の充実した説明/開示を行うこと
・当事者となる取締役の利害関係にかかる説明及び利益相反に係る対処方法を示すこと
・スクウィ―ズ・アウト時の価格設定を公開買付価格と同一価格を基準とすること
・第三者委員会を組成し、独立した第三者として、案件の是非や買取価格等の判断を求めること
・弁護士・アドバイザー等による独立したアドバイスを取得すること
・両当事者がそれぞれ別の独立した第三者評価機関から株価算定書等を取得すること
・公開買付期間を比較的長くとること(30日以上など)
等が基本的事項として挙げられる。
もちろん、実務上ではこれまで述べたこと以外にも、案件の性質によって様々な検討項目が存在する。特にMBOにおいては「個人」が関わってくることも多いという事情もあり、税務面での検討が非常に重要となるケースが多い。たとえば、以下に示した事例は、よく議論される税務面での必要検討事項の一例である。
例えば、ストラクチャーの中で、既存株主等が株式を売却する場合、当該株主の属性(法人なのか個人なのか)、対象会社の属性(上場会社なのか非上場会社なのか)等諸条件により、株式売却の利益(所得)にかかる実質的な税率が異なってくるという問題がある。
ある「個人」がTOBに賛同し株式をSPC等に売却するというケースを想定しよう。対象会社が上場会社であれば、一定の条件のもと税率は10%(2011/11現在、軽減税率)が適用される。一方で、対象会社がMBOに伴って非公開化した後にこの「個人」が株式を売却する場合、その時点では対象会社が非公開会社であり(詳細は省くが)税率は通常20%となる。
この事実をとっても、TOBの賛同の要否/イグジットのタイミング等が税務インパクトに大きく影響を与える要素であると理解できるだろう。その他にも、当該「個人」の株主が、種類株式発行にかかる定款変更時において、反対株主買取請求権行使により株式を売却した場合や、スクウィーズアウトにより現金化する場合の税務インパクトについても当然比較対象とし、シュミレーションを行う必要があるだろう。
しかし、実務的にはこの事例(売却のタイミング)のように単独要素を検討するだけでは足りず、さらにスキーム全体を含めたより複合的な分析が必要である。
少し難しくなるが、スクウィーズアウトの手法とそれに伴う税務インパクト、SPCを用いたMBOで、将来的にSPCと対象会社が合併する場合、当該スキームにおいて適格合併となるか否か、それに関連した「みなし配当課税」や「時価評価」を考慮した税務/財務インパクト等の要素も、前述の問題に加えて分析を行い、最適なストラクチャーを構築する必要があるのだ。
最終的には、実際の数字を財務モデルにプロットし、複数のケースにおける綿密なシュミレーションを行い、各取引主体の視点からストラクチャーの比較分析をすることが重要となってくる。
このように様々な要素を考慮して、最適なストラクチャーを決定していくのである。検討すべき項目が多岐にわたるのがMBOの難しいところであり、それら多岐に渡る項目を複合的に分析し、実現しうる複数のストラクチャーに係る各取引主体のメリット/デメリットを分析・理解しながら案件を進め、クライアントを成功に導くこと、これが我々アドバイザーにとっては腕の見せどころでもあるのだ。
|